マンチェスター

 今回の一時帰国はマンチェスターからパリ経由で成田へというエールフランス便を利用。行きは早朝、帰りは夜遅い到着ということで、ランカスターから車でマンチェスターに行き、行き帰りを空港近くのホテルに投宿(駐車料金こみで格安だったので)。
 戻ってきた翌日、マンチェスター市内に立ち寄る。目的はマンチェスター・アート・ギャラリーにて開催中の特別展「ホルマン・ハントとラファエル前派のヴィジョン」を見るため。1848年に結成され数年間活動したラファエル前派のメンバーの一人ホルマン・ハントを核とした国際展覧会としては40年ぶりの開催だという。もともとこのグループは、産業経営者のパトロンが多くいたこともあって、北部産業都市のギャラリー、ミュージアムに重要な作品が多く残っていて、マンチェスターにも割と多く収蔵されている。それを基礎にして、他からのローンを加えて充実した内容になっている(しかも特別展なのにただである)。今回の目玉のひとつは、「世の光」がマンチェスター・アート・ギャラリー所蔵のものに加えて、オクスフォード大学キーブル・コレッジ所蔵のヴァージョン、さらにロンドンのセント・ポール大聖堂蔵の大型版と併せて展示されているところ。「雇いの羊飼い」、「良心の目覚め」、「ドルイド僧の迫害からキリスト教伝道師をかくまう改宗したブリトン人の家族」、「生贄の羊」ほか。主要作品はだいたい以前に見ているが、大作「幼子たちの勝利」ほか初見もある。こうして一ヶ所に集められると、ハントの仕事全体の同時代的な意義が確認できる。麦わらだとか、蛾だとか、細部のひとつひとつに含意があって、画面全体に過剰に意味が積み込まれているのだが、視覚的なアクセサリーとして画面構成に効果的に貢献していて、その塩梅がうまい。ヴェネツィア派の影響を受けた女性像などは、ロセッティとの類似性を感じるが、ハントの特異な点といったら、死海への旅を転機としてもたらされた、常軌を逸した色遣いの風景描写であろう。昨年大学院での象徴主義をテーマにしたゼミで「生贄の山羊」を取り上げたとき、どなたか「この人、行っちゃってる」と評した人がいたのを思い出す。背景の死海の風景のみならず、山羊の描写そのものにも言及してのことだったが(目がなんともねえ)。


PRBは来年度以降ゼミや市民講座でまた扱うことになりそうで、よい「仕込み」の機会になった。
美術館の裏手にあるチャイナ・タウンで遅めの昼食を取ってから、市内を少し散歩。

これはピカディリー・ガーデンズの噴水で、周囲の空間と併せて、安藤忠雄の設計。
雨模様で寒いのに、マンチェスター子が数人、噴水で水遊びをしていた。
夕刻に12日ぶりでランカスターに帰宅。その夜、ものすごい音をたてて、雹が降った。