霧のウィンダミア

 ランカスターはここ数日天気はよいが、気温は低く、特に夜はたいへん冷える。11月下旬から夜は氷点下になるのが普通で、今朝は雪が降った。
 そんな寒い中、日曜日に湖水地方を歩く。市内に住むイアン、スー夫妻のお誘い(イアンはランカスター大の物理学の教授、スーは家人の英語クラスのチューター)で、家まで車で迎えにきてもらって、ウィンダミア湖の北東のTroutbeck村へ。そこを出発点として、ウォンズフェル山(Wansfell Pike)を中心に尾根歩きをする。膝が本調子ではない(一定限度を超えると下り道が苦痛になる)ので5〜6マイル程度の軽めのコースにしてもらった。
快晴だが空気は冷たく、道の多くが凍結している。

少し上るとウィンダミア湖の水上一面に濃い霧が立ち込めているのが望める。冬季によくこうした状態になるとのこと。お昼時、おにぎりをほおばって下界を見下ろしていると、しだいに霧が晴れてきて、やがて湖水全体が見えてきた。

 フェルウォーキング日和ということで、他のウォーカーを多く見かける。すれちがうときにただ挨拶を交わすだけでなく、しばしば立ち止まってそれぞれが歩いてきたところについて細かく情報交換をする(このあたりは日本とはちがう)。その会話の折、スーが地図に出ているのにどうしても見つからない牧草地内の歩道(footpass)について訪ねると、「道が見つからなくても(と地図を示して)この黄色くマークされているあたりはどこを通ってもかまわないんだから」と別の一行の人が言う。その際に教わったのは、ある程度以上の高度の土地では私有地であっても原則として歩行者が自由に通行できる権利が比較的近年に法制化されたのだということ。春先から何度か山歩きをしていて、羊や牛が草を食んでいる私有地のなかにpublic footpassと明記してあってお咎めなしに出入りできるのがいささか謎だったのだが、これは昔からの慣習ではなく(以前は通行に制約が多かったという)、ウォーカーたちの働きかけによって獲得されたものだとのことだ。そこで会ったケンダル・フェル・ランブラーズのお兄さんに言わせると、「トニー・ブレアの唯一の有益な功績」だという。これは日本も見習ったらいい。

下山して、村のパブ(Queen's Head Innという16世紀建造の由緒あるお店)でビールで打ち上げをして、ランカスターに戻る。イアンもビターを半パイント飲み、それから運転をする。高速道路は2区間、時速80マイルで快調にとばし、家まで1時間もかからない。先日スーに聞いた話では、飲酒運転はもちろんイギリスでもご法度だが、「半パイントまでは飲酒運転と見なさない」(!)という慣習というか約束事があるという。本当だろうかと思って、別の人(キース)に確かめてみたら、「半パイントねえ・・・いや、もう少しいいんじゃないかなあ」と言う。まあ彼らは概ねアルコール分解酵素が豊富なのでそう問題はないのだろう。これについては日本は見習えない。