冷戦モダン

 ランカスターはここ数日好天つづきで、寒さもそれほどでもない。年末年始は遊びまわりたいところだけれども、2つほど約束の仕事の締め切りがあって家にこもりがち(関係者各位へ、遅くなりましたが進めています)。
 1週間前、身内が一人訪ねてきたので、その案内のためロンドンへ。その折、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に連れて行った際に、小時間単独行動ということにして、気になっていた特別展Cold War Modern: Design 1945-1970を遅ればせながら見学。

Cold War Modern: Design 1945-1970

Cold War Modern: Design 1945-1970

 モダニズムに関わる展覧会となれば、両大戦間期をカヴァーするのが普通なわけだが、「冷戦‐モダン」という組合せで、扱うのは冷戦の初期・中期にかけての四半世紀の期間、東西両陣営のデザインを住宅、工業デザイン、写真、映画、宣伝ポスター、ビラなど広範囲でセレクトしている。タイトルからして当然ながら、戦後の「モダン」の展開が国際関係のそれを切り離しがたいものとして提示(政治的に前景化)され、その文脈でル・コルビュジエバックミンスター・フラーの建築、イームスやディーター・ラムス(ブラウン社)の家具、ロバート・ラウシェンバーグゲルハルト・リヒターのアート、スタンリー・キューブリックの映像、あるいはスプートニクやアポロ号の宇宙服のデザインが互いに関連付けられて展示されている。最後のセクションは「ユートピア」を鍵語として、「膨張可能で、可動性の、使い捨て式の居住地としてのユートピア像の創出のために建築家・デザイナーが活用された次第」(案内文より)を見せる。
 東西両ブロックの相容れぬ緊張・対立という政治的構造のなかでの双方の「モダン」の産物を概観したときに、両者の差異よりはむしろ類似性・同質性が際立って見えてくる。「うわ、すごい似てるじゃん」というのが第一の印象。
 中ほどの部屋ではショスタコーヴィチが曲をつけたソ連ミュージカル映画『モスクワのチェリョムーシカ』(Cheryomushki, 1962)のさわりを流していて、つい見入ってしまう。主人公ら二人がマイホームの夢を見る場面で、集合住宅のインテリア空間に入り、ハウスメーカーのCMさながら、「これが私たちの部屋。なんてすてき。キッチンもある。床はぴかぴか、ガラスのように。お友だちをたくさん呼べる。ダンスもできる」といって踊りまわりながら歌う。この作曲はつらい仕事でなかったのかどうか。
 ヴェスパ(イタリア製スクーター)の初期形の現物を初めて見ることができた。戦後イギリスの窮乏の時代、少年たちの憧れの的だったもの。