エドワード・アプワードの長生

 先週金曜日から昨日まで、北アイルランドへ。ベルファストとデリー、それに北部の海岸沿いを車でめぐる。アイルランドに行くには空路とフェリーがあるが、現地の足の便を考えて後者に。ランカスターからスコットランド南西部のストランラー(Stranraer)まで車をとばし(これが3時間半ほどかかる)、Stena Lineのフェリーでベルファストまで。フェリーではこれがブリテン島からアイルランド島までの最短距離で、所要時間は2時間。天気はまずまずで、街中を歩き回って、それなりに土地勘を養うことができた。これについては後日またふれる。

 2月16日付けの『タイムズ』にマルクス主義の作家エドワード・アプワードのobituaryが出ている。先週金曜日に死去。おやまだご存命だったのか、と意外な感じ。

 オーウェルやウォーと同年の1903年に生まれ、享年105だ。「1930年代およびその後の社会的政治的混乱を照らし出す短編・長編小説を書いた傑出した英作家」という見出し。『ガーディアン』でも同日にobituaryが出ていて、こちらの見出しは「作家、詩人、イシャウッドの友人、『オーデン世代』の最後の人」となっている。アプワードの名前を私が知ったのは、オーウェルを通してだった。1930年代に顕著になった「正統左翼」の(硬直したイデオロギーをもつ)知識人の典型として、「鯨の腹のなかで」(1940)などでオーウェルは何度か彼の名前に言及している。初期にはシュールレアリスム的な作風の小説も書いていたが(英国のシュールレアリスムというトピックを語る場合に彼の名は欠かせないだろう)、コミンテルンの「指導」に忠実に従って、社会主義リアリズムの立場から「ファンタジー」を「現実世界からの退却」として拒否する。「作家は日常生活のなかで労働者の側に与しない限り、いかに才能があっても、よい本を書けはしないし、現実についての真実を語ることはできない」(「文学のマルクス主義的解釈のためのスケッチ」1937年)という、いかにも「プロ文」的な言明。「マルクス主義的な傾向を有する本だけが『よい』もの」だとする主張は、オーウェルが叩きやすいものではあった。知らなかったが、作家活動は晩年まで続けていて、2003年には最後の小説『春の背教者』(A Renegade in Springtime)を刊行したという。まあ、なんと息の長い。

 G7での中川財務相の失態については、イギリスでもTV、新聞で大きくとりあげている。日本のトピックはそう多くはないが、こういうのに限って嬉々として報道している感じ。『ガーディアン』のオンライン版は、"Japanese finance minister resigns after slurring his way through G7 briefing"と題し、わざわざ動画をアップしてくれているのは、ありがたいというか、なんというか。