青空娘

自宅にて仕事。締め切りを過ぎている原稿書き、校正刷りのチェック。息抜きに昔の映画を1本見る。

青空娘 [DVD]

青空娘 [DVD]

初見。増村保造監督の第二作目(1957年)。増村監督は、1970年代のATGでの『大地の子守歌』や『曽根崎心中』などは封切時に見ていたが、初期の大映作品を私はほとんど見ていなくて、まったく遅ればせながら見た。いやあ、いいな。もともと花の盛りであるにしても、若尾文子をじつに美しく魅力的に撮っているなあ。役柄は、富裕層の男の「二号」の娘で、前半は父親の家に「女中」として使われ、正妻とその子どもらにいびられまくるというすごい設定なのだが、その不幸な境遇にもかかわらず、とにかく明るい。前向き、聡明。運動神経がよく、卓球で男を打ち負かしてその男(社長の御曹司)を惚れさせる。体力もある(「女中」呼ばわりして態度の悪い義弟と喧嘩勝負してこれも打ち負かし、心酔させてしまう)。監督の最初の「総天然色」作品とのことだが、色彩感覚もいいなあ。ちょっと大げさかもしれないが、シェイクスピア後期のロマンス劇を思わせるような赦しと和解が最後に用意されていて、昭和32年に映画館でこれを見た観客は晴れ晴れとした気分で帰途についたことだろう。若尾文子は、私の世代だと、この頃はよく知らず、テレビドラマ『おはよう』(1972年)のおかみさんの記憶が強いが(いまだとソフトバンクの「お父さん」のお母さんか)、同時代でこれを見ていたら偶像視していたかもしれない。なつかしいミヤコ蝶々南都雄二が脇役で出ていて、後者は魚屋のあんちゃんなのだが、「哲学」好きで、なにかというと思想家の警句を引用する。ジョン・ラスキンを持ち出してきたのには驚いた。日本映画でラスキンが言及される稀有な例ではあるまいか。