ケルムスコット・ハウス

 9月8日(木)、ロンドン西郊ハマスミスのテムズ河畔にあるケルムスコット・ハウスを再訪。

 これもロンドンでは一見どうということもないジョージアン様式の(築200年ちょっとの)住宅建築だが、ウィリアム・モリス1878年から亡くなる96年まで住んでいた家ということで名高い。ついでに言えば、モリス以前に作家のジョージ・マクドナルドもここに大家族で暮らしていた(そのときは「リトリート(隠棲亭)」と称した)。モリスはこの家の1階書斎で『ユートピアだより』や「後期ロマンス」群を書き、マクドナルドも『北風のうしろの国』ほかのファンタジー作品をここで書いた。そういう意味でたいへんに多産な家であったといえる。画面左手の低目の丸い屋根の棟はもともと馬車小屋で、マクドナルドが住んでいたときはそのように使っていたが、モリスがここに引っ越すと、馬と車を持つ代わりに、まず織機をここに置いて自身で織物の研究をし、それから社会主義運動を活発に行う1880年代から90年代前半はここを集会所にして、モリスの主宰で講演会を行った。講演者は、モリス自身のほか、バーナード・ショーシドニー・ウェッブ、クロポトキンらがいる。聴衆にはワイルド、H・G・ウェルズ、W・B・イェイツなど多彩な顔ぶれがあった。
 この建物は地階とこの(もと)馬車小屋がモリス協会の所有で、地階にモリス協会の本部オフィスがある。毎週木曜日と土曜日の午後に一般公開していて、モリス・チェアーの現物やモリスのデザインによる壁紙・織物のウッドブロック、またケルムスコット・プレスの活字、アルビオン印刷機などの展示が見られる。モリス協会の過去5年ぐらいの未読のモノグラフや小冊子を入手。