天国への階段

懲りもせずというか、身の程をわきまえず「過剰受注」のツケがまわって、締め切りをとうに過ぎている原稿をようやく8割方進める。結論が見えていて、書くことで自分に新しい発見が得られそうにないような類の書き物はいささか書くのがつらい。
気晴らしに庭に出ると、小さな花が目にとまる。



昨年庭造りを頼んだ「木ごころ」のご主人の選択で、植物に疎い依頼人にわかるよう名札をつけてもらってあったので、それを見ると「ポレモニアム・ステアウェイトゥ…」とカタカナで書いてある。それで調べてみるとPolemonium Stairway to Heavenということらしい。「ポレモニウム・天国の階段」というわけだ。「ポレモニウム」はラテン語の学名で「ハナシノブ属」とある。頼りにしているコリンズ社のハンディな植物図鑑『ブリテン北ヨーロッパの野花』を引くと、Phlox Family (Polemoniaceae)の項目にJacob's Ladder (Polemonium caeruleum)とあって、図を見た限りで似ているが、ウェッブ上で検索すると北米ほか広く分布するPolemonium reptans(「這うポレモニウム」)というのもあって、これStairway to Heavenという名がついている。厳密にはこちらのほうなのだろうか。
ヤコブの階梯(天空のポレモニウム)」というのは、むろん、旧約聖書創世記中のエピソード、ヤコブの夢に出てくる階段にちなんでいる。それにしても、この花の形状からこの名前とは、どのような連想によるのだろうか、などと考えつつ、部屋にもどると、久しぶりにレッド・ツェッペリンのStairway to Heavenを聞くというなりゆきになる。

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高校生の頃は(いや大学生以後だって)歌詞にあまり意識が向かわなかったのだが、改めて聞いてみると謎めいて不思議な詩なのだな。だいたい「レイディ」って誰なのだろう。
ヤコブの階梯」というとブレイクやバーン=ジョーンズがそのモチーフを描いていたのを思い出す。Stairway to Heavenの歌詞はロバート・プラントが手がけたそうだけど、ジミー・ペイジは再評価の機運が高まる前からバーン=ジョーンズが好きでモリス商会オリジナルの〈聖杯の探求〉タペストリーを購入していたことが知られている。ラファエル前派のイメージ群とツェッペリンの音楽、やはりつながりがありそうだな……と想念がどんどん拡散していくが、さあこんなことしていないで仕事にもどろう。



 (バーン=ジョーンズ《ヤコブの夢》(1897年)ステンドグラス、セント・マーガレット教会
   ロッティングディーン、2012年3月撮影)