アイ・コンタクト

 悪天候の土曜日。朝、近所のSparにGuardian(土曜版は付録がいっぱい)を買いに行った以外は、家で仕事。来週後半から一時帰国するのだが、その際の行事が増えてしまい、関西でのある会では講演の通訳をするということに行きがかり上なってしまった。その場でぱっと訳すようなプロの芸当は持ち合わせていないので、ペーパー(2本ある)をあらかじめ受け取って、その訳を事前に作っておくことで対処する。これでいちおう恰好はつくとは思うが、他の用事もあってこの手間がめんどう。公的研究費申請は中途まで書いて、「プロ」の共同研究者におまかせすることに。これも締切直前なのだが。

 先月だったか、日本の新聞記事をウェッブで見ていたところ、「目があった」という理由で少年たちに暴行を働いた男の記事が出ていた。じっと眼を合わせるのが無礼であるというのが前提になっている。殴りかかるのは論外だが、じっと見つめるのは失礼、という感覚は日本ではいまでも普通にあるのだろう。
 私もそういう感覚がしみついているので、こちらの対人関係での「アイ・コンタクト」は自覚的にやる必要がある。たとえば、スーパーのレジ。自分の番になったときに、まず目を合わせ、「ハロー」とか言って、支払が済んだあと必ずもう一度ばっちりと目を合わせて「サンキュー」とやる。これをやらないと(彼らは日本の習慣を知らないので)何か不満や文句があるのではないかと勘ぐるようで、暗い顔になったりもする。そういう誤解を受けるのもいやなので、スーパーにかぎらず、対人関係ではかなり気合を入れて、「ガンを飛ばす」ことにしている。

 ところが、先日のウェールズ旅行の折、アバーガヴェニーという町のツーリスト・インフォメーションに立ち寄ったとき、担当者のおじさんがそうした視線を避けて対応するのを見て、意外な感じがした。特に機嫌が悪いというのでなく、「アイ・コンタクト」の習慣がイングランドほどにはないと見た。見ず知らずであっても、人と接する際には目を合わせてにこりとするというような、ランカスターで当たり前のようなことが(雑踏の中ではさすがにしないが)、そこでは当たり前ではない。

 もちろんこれで、ウェールズ人の国民性がイングランド人とくらべてどうのこうのと言えるわけではないが、「視線」の弱さは、おや、これはまるで日本にいるみたいではないか、となつかしく思ったのだった。