ジャーヴィス・コッカーのののしりプロテスト・ソングを聴く

 終日自宅。久しぶりの学務以外のデスクワーク。調子がなかなか出ない。プロテスト・ソングの歴史など調べる。

ジャーヴィス

ジャーヴィス

ジャーヴィス・コッカーのソロ・アルバムを遅ればせながら入手。2006年にラフ・トレードよりリリースされたもの。辛辣なプロテスト・ソング「ランニング・ザ・ワールド」を付録で含む。付録でというのは、13曲目の「クオンタム・セオリー」が終わって、放っておくと、30分たってからこれが始まる仕掛けになっている。「ランニング・ザ・ワールド」のリフレイン、「くそ野郎どもが世界を仕切っている」は辛辣で、またリアリティがある。ブリットポップ系でいちばん批評精神がある人なのではあるまいか。さすがマイケル・ジャクソンのステージに殴り込みかけただけのことはある。
 このアルバム、日本版を買ったので、訳詩が付いているのだが(訳者名は記されていない)、ざっと見て訳が杜撰で、昔からこの業界は変わっていないのだなと思う。この人の歌は詩の意味が肝心なのに。「ファット・チルドレン」の訳詩、「ゆうべちょっとした喧嘩をした。奴らは黄色味がかった街灯の下で恐怖に震えていた。」とあるが、「恐怖に震えていた」連中が襲い掛かってきて強盗殺人をするか? they wobbled menacingly...麻薬中毒でハイになっていて通りがかる人を威嚇しながらよたよた歩いているのではないか。「私」がこの「太った子どもら」にぼこぼこにされてしまったあと、通行人が駅に連れて行ってくれた。そのあとの訳が「警察はどこにでもいた―理由もなく人の頭に銃を突きつけながら…」わけがわからない。その原文はThe Police Force was elsewhere - putting bullets in some guy's head for no particular reason. 2005年7月7日のロンドン同時多発テロの直後の、警察がブラジル人男性をテロリストと誤認して地下鉄内で殺害した事件を示唆しているのであろう。
 アルバムに付された写真をめくると、ジャーヴィスウィリアム・モリスの壁紙「柳の枝」が張られた部屋にいる一枚があった。あの7・7の日、ロンドンにいて交通網が麻痺して、集団的ヒステリー状態のような雰囲気の中、苦労してロイヤル・ホロウェイのモリス学会に赴いたことを思い出した。